秋の野蒔絵手箱

秋の野蒔絵手箱 あきののまきえてばこ

蓋表には、流れを挟んで萩・藤袴・桔梗・芒(すすき)の秋草と鹿をあらわし、空には飛び交う小鳥たちを配しています。鹿は、日本では、春日大社や厳島神社などでは神鹿(しんろく)と呼ばれ神の使いとして信仰されたほか、「奥山に 紅葉踏みわけ 鳴く鹿の 声きく時ぞ 秋は悲しき」(『古今和歌集』巻四・猿丸太夫)で知られるように、秋の情趣と結びつけられてきました。また螽斯(きりぎりす)・蟷螂(かまきり)・蜘蛛の巣など秋草にすだく虫たちをも描き込み、小さな虫たちにまで美を見いだす当時の趣向をよく示しています。秋の野を意匠化した手箱の遺例はいくつか知られていますが、その中でも最もすぐれた意匠の作品です。

【鎌倉時代 13~14世紀】

徳川光友(尾張家2代)所用
一合
高12.4 縦25.7 横27.0

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