掃墨物語絵巻

重要文化財

掃墨物語絵巻 はいずみものがたりえまき

 眉墨(まゆずみ)と白粉(おしろい)とを取り違え化粧した娘の顔に、訪れた僧が鬼と驚き逃げ出してしまう。これを悲しみ仏心を起こした娘が剃髪(ていはつ)出家するという物語を描く。平安時代の短編物語集『堤中納言(つつみちゅうなごん)物語』中の一話「はいずみ」をはじめとする掃墨取り違え譚(たん)を下敷きとするが、これらが笑いを含んだ結末となっているのに対し、本巻の詞書は天台大師(てんだいだいし)(智顗(ちぎ))らの言葉を引用しながら仏教帰依(きえ)を勧める宗教的な内容となっている。
 四季の移ろいの中に物語が展開するとともに、画中詞(がちゅうし)(台詞(せりふ))として母と娘の間の軽妙な会話が記されるなどユーモアの要素も本巻の特色である。伝統的な絵巻の作風から、室町時代のお伽草子へ転換して行く過渡期の作品として注目される。

【南北朝-室町時代 14-15世紀】